– フュージョンプラントの運転に欠かせないトリチウムおよび放射化物の評価およびハンドリングの研究を実施 –
国立大学法人東北大学大学院工学研究科(以下、東北大学)と京都フュージョニアリング株式会社(以下、京都フュージョニアリング)は、将来のフュージョン(核融合)プラントの運転に欠かせないトリチウムおよび放射化物の評価およびハンドリングについて、共同研究契約を締結したことをお知らせします。

■共同研究契約締結の背景
核融合反応を起こすために用いられる燃料の一つであるトリチウムは、放射性物質であるため、安全を前提とした取り扱いが求められます。フュージョンプラントでは、燃料として核融合炉に供給されたトリチウムのうち、核融合反応を起こさなかった分が、他のガスと混ざって炉から排出されます。この混合ガスからトリチウムと重水素が分離・回収され、それらは再び燃料として炉に戻されるため、トリチウムは炉内だけでなく、装置や配管内を循環することになります。そのため、安全を確保するには、トリチウムの正確な計測や、トリチウムの吸収や透過が少ない構造材の選定が必要不可欠です。
さらに、核融合反応によって発生する中性子が、構造材中の原子核と反応することで新たに生成される放射性物質(放射化物)の挙動を把握することも重要な課題の一つです。特に、民間主導で進められているフュージョンエネルギー発電実証プロジェクト「FAST」など、2030年代の発電実証を目標とする取り組みが活発化するなかで、トリチウムおよび放射化物の取り扱いに関する技術の成熟は、喫緊かつ重要な課題とされています。
こうした背景を受け、このたび、トリチウム関連の研究をけん引してきた研究者の一人である東北大学大学院工学研究科の波多野雄治教授と、工学技術の強みを持つ京都フュージョニアリングが共同で、トリチウムおよび放射化物の評価およびハンドリングに関する研究を開始します。
■共同研究契約内容
共同研究では、「FAST」をはじめとする2030年代の発電実証実験に向け、次のような取り組みを行います。
- トリチウム計測方法の検討
- 照射下、トリチウム環境下での材料耐久性評価(構造材の選定)
- 廃棄マネジメント方針の研究
■両者からのコメント
東北大学大学院工学研究科 教授 波多野 雄治
産官学でフュージョンエネルギーの早期実現に向けた機運が高まっていることを大変喜んでおります。フュージョンプラントでは、ある程度の量の放射性物質を取り扱うことが避けられないため、それらを安全にハンドリングする技術の成熟度を十分に高めておく必要があります。また、放射性物質の取り扱いについて十分な知識を有する人材の育成も不可欠です。フュージョンプラントの開発で先導的役割を果たしておられる京都フュージョニアリング株式会社との共同研究を通して、これらの課題の達成に貢献したいと考えています。
京都フュージョニアリング株式会社 Vice President of Plant Technology 久米 祥文
このたび、トリチウムにおける研究の第一人者である波多野教授と共同研究を行えることを大変心強く感じています。波多野教授には豊富な知識と経験から助言をいただくなど、これまでも当社と深い関わりがありました。今回、共同でトリチウムの計測や評価、また構造材の選定について研究を行うことで、当社が手掛ける「フュージョン燃料サイクルシステム※1」の技術開発が大きく前進できると確信しています。
※1:フュージョン燃料サイクルシステムは、核融合炉内で核融合反応を絶えず起こすために、炉内の混合ガスを排気し、燃料となる重水素やトリチウムを分離・回収し、再度燃料として供給するための一連のシステムで、フュージョンプラントに欠かせない重要な技術です。