2025.11.27
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フュージョンエネルギー発電実証プロジェクト「FAST」の概念設計を終え、国内の民間主導プロジェクトとして初となる「概念設計報告書(CDR)」を公開

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-2030年代の発電実証に向けた重要なプロセスを終了し、建設に向けた工学設計へと移行-

2030年代の国内でのフュージョンエネルギー発電実証を目指す産学連携プロジェクト「FAST(Fusion by Advanced Superconducting Tokamak)」を推進するStarlight Engine株式会社と、フュージョンエネルギープラントのエンジニアリングを手掛ける京都フュージョニアリング株式会社は、FAST装置の最初の重要なプロセスである概念設計を終了し、設計情報をまとめた「概念設計報告書(Conceptual Design Report:以下、CDR)」を公開したことをお知らせします。

両社および日本国内の主要な大学や公的機関研究者らの協働により、2024年11月のプロジェクト始動からわずか1年で概念設計を終了し、日本国内での民間主導のフュージョン発電実証プロジェクトとして、内閣府「フュージョンエネルギー・イノベーション戦略」に応える初のCDRをまとめ上げました。また同時に、安全設計の基本方針を原子力規制庁との対話で公開し、一方、サイトの基本要件を示して立地の準備を進めることで、FASTは今後、建設に向けたより具体的な設計プロセスとなる工学設計活動へと移行します。

■FASTプロジェクトについて
フュージョンエネルギー発電実証プロジェクト「FAST」は、2030年代の発電実証とそれに続くフュージョンエネルギーの実用化に向けた民間主導の取り組みです。Starlight Engine株式会社が実施主体となり、江尻 晶教授(東京大学)や藤田 隆明教授(名古屋大学)、伊庭野 健造助教(大阪大学)をはじめとする日本で有数のトカマク装置やプラズマの研究者に加え、京都フュージョニアリング株式会社や三井住友銀行、電源開発(J-Power)、日揮、日立製作所、フジクラ、古河電気工業、丸紅、鹿島建設、京セラ、三井物産、三井不動産、三菱商事などが参画・賛同し、産学連携で推進しています。

FASTプロジェクトでは低アスペクト比のトカマク方式を採用し、核融合反応(D-T※1)を起こす燃焼プラズマの生成・維持を行うとともに、エネルギー変換システム、燃料増殖と燃料サイクルシステム、保守メンテナンスを一体化したフュージョンエネルギー発電システムを実証することで、商業化に向けて技術的課題の解決を目指しています。また、発電実証に必要な技術を統合的に実証することを通じて、日本のものづくり技術を活かした強靭なサプライチェーンを構築してまいります。

※1:重水素(Deuterium)と三重水素(トリチウム:Tritium)による核融合反応。

■概念設計の完了と今後のスケジュール
FASTでは、2024年11月のプロジェクト立ち上げ以降、「概念設計」と呼ばれる重要なプロセスに取り組んできました。概念設計は発電実証を行うフュージョンエネルギープラントの設計プロセスで、技術的・工学的な実現可能性の評価やプロジェクトの方向性の明確化、安全にかかわる設計・評価や経済性評価などを行い、プラントの基本的な設計仕様を決定します。

概念設計の完了に伴い、今後は建設に向けた工学設計への移行と工学R&Dの加速、またサイト選定、サイト整備や許認可申請、長納期品の調達等を進め、2028年以降の建設開始へと繋げていきます。今回終了した概念設計は、その後すべての活動に繋がる重要なプロセスで、その結果をまとめたCDRはプラントの設計基盤として重要な役割を果たします。

FASTのCDRは、装置の目的、要求性能、システム構成、成立性、そして建設に必要なコストや工程をまとめた“設計の基盤”となる文書です。概念設計活動の中では、発電技術、トリチウムサイクル、遠隔保守といった実証テーマを定め、それに必要なフュージョン出力を決定し、超電導コイルやブランケットなどの装置構成と主要な仕様を決定しました。プラズマ物理、炉工学、プラント設計の専門家が協力し、科学的・工学的に実現可能であることを丁寧に確認しながら作成しています。このCDRは今後の建設に向けた工学設計の出発点であり、CDRがあって初めて、国・企業による投資判断や規制当局との議論が開始できます。

長年JT60-SAやITER建設、また原型炉設計検討に携わった研究者やエンジニアらのノウハウを活かしながら、すでに京都フュージョニアリングが進めているプラント技術の実績を掛け合わせることで、本来は数年かかるこのプロセスを FASTではわずか1年で終了しました。これまで培われた公的機関での経験や実績とITER等の設計データベースを組み合わせることで、国の方針である「フュージョンエネルギー・イノベーション戦略」に応える発電実証プロジェクトとしては初めてのCDRを事業主体として作成することができました。民間主導プロジェクトは、事業推進主体や事業推進の意思決定がすでに行われており、政策的コンセンサスの必要な官主導プロジェクトより圧倒的に早いスピードで、今後のフュージョンエネルギーの産業化に向けて事業を進めることができます。

FASTは今後、概念設計フェーズから建設に向けた工学設計フェーズと移行します。工学設計の最終レポートとなる工学設計報告書(Engineering Design Report :EDR)を2028年までに完了させる計画です。

また、平行してサイト要件を公開し、すでに複数の地域・団体等とコミュニケーションを始めている立地に向けたサイト選定を進めます。加えて、発電実証施設の許認可に向けた「安全確保の基本方針」を公開して規制庁との対話も進めており、建設に向けて着実に進展しています。2026年には工学設計と工学R&Dを進めるための資金も調達予定です。

■FASTの特徴

・科学的・工学的に意味のある核融合出力と発電を早期達成する設計
これまでのトカマク研究が積み上げてきた確かな実績を土台に、NBIビーム加熱によるフュージョン反応を最大限に引き出すことで、JT-60SA級サイズで50MW級のフュージョン出力を達成します。実績あるJT-60SAの技術と国内メーカーの高い製造力を組み合わせることで、日本が最短距離で、そして確実にフュージョン反応装置を建設できる設計を提示しています。

一方、これまで世界的にも未知の領域であったエネルギー変換と燃料サイクルについては、京都フュージョニアリング社が統合試験プラント「UNITY-1」、「UNITY-2」で世界に先駆けて技術実証を進めており、これらがフュージョンエネルギーの発生と取り出しを世界で初めて実現する技術的な基盤となっています。“実現可能性の高さ”と“挑戦性”を両立した、日本らしいアプローチとなっています。

・商業炉技術を実機相当規模で統合実証
高温超電導コイル、燃料を製造し高温を取り出すブランケットなど、商業フュージョン炉に欠かせない技術を世界に先駆けて統合実証します。さらに、熱交換器を介した発電実証に加え、遠隔保守・交換技術はエネルギー実用化に不可欠な要素であり、FASTはそれを一気に前倒して実証します。2030年代の発電実証の先には、先端ブランケットや革新的ダイバータ、新材料などを試す“次の挑戦”のためのプラットフォームとしての活躍を続けます。

代表者からのコメント

Starlight Engine株式会社 代表取締役 兼 京都フュージョニアリング株式会社 代表取締役社長 世古 圭
2030年代の発電実証に向けた重要なプロセスの1つを無事達成できたことを嬉しく思うと同時に、関わるすべてのメンバーの専門性や経験、情熱を大変心強く感じています。わずか1年という短期間で概念設計を完了することができたことは、ひとえに日本の長年の研究成果によるものであり、これまでフュージョンの研究に携わってこられた量子科学技術研究開発機構や核融合科学研究所をはじめとする国立研究所、学術界、産業界の方々にも改めて感謝申し上げます。

FASTはいよいよ建設に向けた工学設計へと移行します。日本の強みであるものづくり産業の力も結集させ、さらにスピード感をもって日本の総力をあげてプロジェクト遂行に取り組み、フュージョンエネルギーの早期実現に取り組んで参ります。

京都フュージョニアリング株式会社 共同創業者 兼 代表取締役会長 小西 哲之
概念設計活動を、予定通り1年という短期間で実施できたことに、まずは安堵しています。またスピード感だけではなく、国内の専門家を動員して高温超電導(HTS)マグネットや液体増殖ブランケットシステム、高効率のトリチウム燃料サイクルシステムといった商業プラントにも必要な新たな技術を取り込む革新的な設計に仕上げることができました。安全設計と許認可準備、サイト選定の準備も着々と進んでいます。

次の建設に向けた工学設計では、プラントエンジニアリングの領域を専門にし、また金融系やゼネコンなどの他業種との幅広いつながりのある当社の強みがより一層発揮できるものと捉えています。事業活動と両立させながら、引き続き、全社一丸となり取り組んでまいります。

大阪大学 助教 伊庭野 健造
産学連携の力により、国内の発電実証プロジェクトとしては初めてのCDRを作成できました。チームメンバーを誇りに思うとともに、今後建設に向けた具体的な工学設計プロセスに着手するため身が引き締まる想いです。

長年研究に関わってこられた研究者の皆様や民間企業の皆様とプロジェクトを推進していく日々はとても刺激的で、やりがいと使命を感じています。フュージョンエネルギーの実現に向けて、FASTプロジェクトを着実に前進させるべく、尽力してまいります。

本日発表したCDRについては、2025年12月1日(月)から12月4日(木)に開催される「プラズマ・核融合学会 第42回年会」でも紹介します。
https://www.jspf.or.jp/jspf_annual2025

また、安全確保の基本方針、サイト要件に関するPDFファイルを以下よりご覧いただけます。

FASTウェブサイト:https://www.fast-pj.com
Starlight Engineウェブサイト:https://sle.energy
京都フュージョニアリングウェブサイト:https://kyotofusioneering.com

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