
皆様、こんにちは。
京都フュージョニアリングの広報担当です。
フュージョンエネルギーの早期実現に向け、日本だけでなく世界中で開発競争が加速しています。
二酸化炭素や高レベル放射性廃棄物を出さない次世代のエネルギー源となることに加え、エネルギー安全保障などの観点からも、各国が自国での開発に力を入れています。
日本では、2023年4月に初めての国家戦略としてフュージョンイノベーション戦略が策定され、今年6月の改訂により2030年代の発電実証が明記されたほか、スタートアップを含む官民の研究開発力強化が盛り込まれました。
2030年代の発電実証を実現するべく、公的な研究機関である量子科学技術研究開発機構(QST)を中心とした原型炉開発や、Starlight Engine主導のもと、当社も参画している「FAST」プロジェクトなど民間企業による計画がいくつか出てきている状況です。
今回のブログでは、フュージョンエネルギー開発で世界をけん引している米国、英国、そして昨今急速に開発を加速させている中国に焦点を当て、各国の開発動向をまとめました。
アメリカの動向:民間主導のイノベーションモデル
米国エネルギー省(Department of Energy:DOE)のフュージョンエネルギー戦略によると、アメリカでは2030年代に民間によるFusion Pilot Plant(FPP/商業用フュージョンエネルギープラント)の実現をめざし、民間企業を中心としたフュージョンエネルギー開発が進められています。
特に象徴的なのは、「マイルストーンベースフュージョンエネルギー開発プログラム」。これは、予め設定されたフュージョンエネルギー開発のマイルストーンを達成した民間企業に対し、開発費を支援するというもので、民間企業同士の競争を促すことで、開発スピードを加速させているのです。
この手法は、NASAが宇宙開発で実施した「COTS(Commercial Orbital Transportation Services)」プログラムを参考に展開されたもので、イーロン・マスクのSpaceX社やOrbital Sciences社といった民間企業が競争を通じて開発を加速させ、優れたロケットや宇宙船を開発してきた経験が活かされています。
また、アメリカでは、GoogleやMicrosoftといった巨大企業や、ビル・ゲイツ氏、ジェフ・ベゾス氏、サム・アルトマン氏といったIT長者もこれら民間企業への投資を行っています。
GoogleやMicrosoftとスタートアップで電力購入契約が締結されていることも話題をさらいました。巨額の資金を得た民間企業によって、アメリカ国内のフュージョンエネルギー開発がさらに加速しつつ、フュージョンエネルギーがビジネスとして成立するような市場の拡大を見せています。
そのなかで特に存在感を示しているのが、マサチューセッツ工科大学(MIT)から誕生した「Commonwealth Fusion Systems社」(CFS)。CFSはMITで培われた技術や研究成果を活かし、2027年には高温超電導(HTS)磁石による小型トカマク装置「SPARC」を、2030年代前半には商用炉「ARC」の実現を目指しています。最近では、日本企業によるコンソ―シアムから出資を受けたほか、フジクラ社のHTS線材を採用するなど、日本とも関わりのある企業として知られています。
イギリス:政府主導の国家戦略と産業育成
民間主導のアメリカとは異なり、イギリスでは民間も活用した政府主導でフュージョンエネルギー開発が進められています。2023年には政府がフュージョンエネルギーに6億5,000万ポンド(1ポンド199円換算で、約1300億円)もの資金を投資すると発表し、話題になりました。(発表はこちら)
開発の中心を担うのが政府機関の英国原子力公社(UKAEA)です。「STEP(Spherical Tokamak for Energy Production)」計画を推進し、2040年までに原型炉の建設および発電実証を目指しています。
また、イギリス政府は国家戦略の一環として、フュージョンエネルギー技術の開発だけでなく、人材育成や産業支援にも力を入れており、英国スタートアップの「Tokamak Energy社」をはじめとする民間企業とも連携し、Culham Campus(カラム・キャンパス)内で、
- フュージョンエネルギーを受け止め、中性子や燃料であるトリチウムの増殖を行うブランケットの開発を行う「LIBRTI (The Lithium Breeding Tritium Innovation) Programme」
- トリチウムの排気・分離・循環などを行うフュージョン燃料サイクルの技術を開発する「H3AT(Hydrogen-3 Advanced Technology)」
- リモートハンドリング技術の開発を行う「RACE(Remote Applications in Challenging Environments)」
- 核融合炉内の高磁場環境を模擬した試験施設「CHIMERA」
など、複数のプロジェクトが同時並行で進んでおり、フュージョンエネルギープラントの実現に欠かせない技術開発が進められています。ちなみに、当社の英国子会社であるKyoto Fusioneering UKもCulham Campus内にオフィスを構え、上記プログラムに一部参画しています。
中国:公的プログラム主導の長期計画と巨額投資
中国のフュージョンエネルギー開発は、世界的に見ても後発ではありますが、ここ数年で飛躍的に開発スピードを加速させています。莫大な民間資金が特徴的なアメリカとは異なり、中国は公的資金を集め、公的プロジェクトとしてフュージョンエネルギー開発を圧倒的な速度で進めているのです。
また、2025年7月には中国のスタートアップ「中国核融合エネルギー会社」が登録資本150億元(約3,060億円)で設立され(参照)、フュージョンエネルギーの産業化に向けた民間機関の動きも始まりました。スタートアップとしても、2024年3月に「Startorus Fusion社」がプレシリーズAの時点ですでに数億元(数十億~百十数億円)の資金調達を完了させています(参照)。
肝心の技術開発でも明確なロードマップを描いていて、2030年代までのフュージョンエネルギー実現を目標として、D-T燃焼*を伴うトカマク型核融合実験炉「BEST (Burning plasma Experimental Superconducting Tokamak)」の開発を進めています。
※DT燃焼とは、Deutrium(重水素)とTritium(トリチウム)を活用した核融合反応のことで、運転実績があるのはEuro FusionによるJETのみで、ITERは現在このD-T燃焼を計画しています。
並行して、磁場によるプラズマ閉じ込めを1066秒成功させた「EAST (Experimental Advanced Superconducting Tokamak)」での実験や、「CRAFT (Comprehensive Research Facility for Fusion Technology)」による核融合炉の実現に欠かせない技術の確立を進めています。
また、BESTで統合試験を行った後には、さらに大規模な実験炉である「CFEDR (China Fusion Engineering Demonstration Reactor)」による発電実証も控えており、こちらの設計にもすでに着手するなど、先行していた他国を上回るスピードで開発に取り組んでいます。
各国が国家戦略のもと開発を加速させているなか、日本でもフュージョンエネルギーイノベーション戦略のもと、社会実装に向けたタスクフォースが始まったり、規制庁による開発事業者との意見交換会合が行われたり、着実に進展しています。
一方で、世界の開発スピードに負けないよう、さらに取り組みを加速させていかなければなりません。当社も一事業者として、フュージョンエネルギーの早期実現に向けて、全力を尽くしてまいりますので、引き続き応援していただけますと幸いです。
また次回の「THE FUSION ERA」でお会いしましょう!
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