2022.07.7
INTERVIEWS & COLUMNS

Behind the Fusion Scene: 今井 剛

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今井 剛, 京都フュージョニアリング テクニカル・アドバイザー, 筑波大学名誉教授 
阪大修士修了・工学博士、QST(旧原研)及び筑波大学にてRF加熱研究、JT-60マイクロ波加熱電流駆動グループのヘッド、ITERジャイロトロン開発するRF加熱研究室長、筑波大学教授・プラズマ研究センター長、プラズマ核融合学会理事を歴任。大学ではNIFS用(77GHz、154GHz)、大学用(28/35GHz)ジャイロトロン開発。 

この業界に興味を持ったきっかけは? 
高校時代に漠然と理系の分野に興味を持っていたものの、具体的に何をしたいかは決まっていませんでした。ただ、エネルギーや食料問題には興味があって、海に囲まれた日本でも、頑張れば自国で賄えるのならば、それにコミットするべきではないかと個人的には思っていました。特に、エネルギーがあれば、食糧の問題も解決できると考えていたので。そんな時、高校の授業で核融合の存在を知り、これだと思い、大学から核融合について学び始めました。 

私が大学を卒業した時が、ちょうど日本でも核融合についての研究が活発になっていたタイミングで、現在の量子科学技術研究開発機構(以下QST、当時の日本原子力研究所)に入社しました。 

その後、30年弱QSTに在籍していたのですが、JT60のマイクロ波加熱実験装置の建設や、ITERのジャイロトロン開発など、当時では先進的だった様々なプロジェクトに関わりました。その後、筑波大学では、核融合科学研究所(NIFS)や大学機関で利用されるジャイロトロンの研究・開発に携わり、2017年に退職して今に至ります。40年余り、一貫してマイクロ波プラズマ加熱に関わる研究・開発・実験とそのプロジェクト管理に従事してきました。 

長いキャリアの中で、特に印象に残っているご経験はありますか? 
いくつかあるのですが、一つ挙げるとすると、JT60マイクロ波電流駆動実験が印象深いです。 

当時相当な労力と資金で進められていた計画だったのですが、いざ出来上がったトカマ・クプラズマにマイクロ波を入射した時に、理論上想定していた数値に全く満たない程度しかプラズマ電流が流れなくてですね、 原因を追求しなければいけないのですが、組み立てた装置を分解するわけにもいかない。装置と実験については良く理解していたので、その利点を活かして、まずはその装置が思う通りのマイクロ波を出せているのかを検証するために、実際に少量を放射しながら細かく分析を試みました。 

マイクロ波放射するアンテナは32本の開口導波管で構成されており、真空放射で理論上想定される反射になっていなかったらそこに原因があると仮説を立てて、導波管に少しずつマイクロ波を入れながらデータを取っていきました。 

すると、半数の導波管のマイクロ波の位相が想定と逆の形になっていることに気が付きまして、今度はなぜそれが起きたのかを、図面を俯瞰して装置全体を眺めながら考えました。そして、ここじゃないかと思う箇所に当たりをつけて確認すると、部品が逆の形でついていました。その箇所を修正した結果、思うようにマイクロ波によりメガ・アンペア級のプラズマ電流が流れた時の安堵と達成感が入り混じったような気持ちは今でも鮮明に覚えています。当時の一部の関係者も「もう流れないと思っていた」と驚いていました。 

以前、QST時代の同僚から「しぶとい」と言ってもらったことがあったのですが、この経験が自分の中では成功体験というのか、「諦めないで原因を探したら見つかるはずだ」と、その後の研究や実験でも、粘り強く追求し続けるようになった原体験として強く残っています。 

核融合の実現にはどんな思いがありますか? 
地上に太陽を作るということ自体に研究者/技術者として惹かれている部分もありますが、島国の日本にとって、海から豊富に摂れるリチウムを使った発電技術である核融合は、クリーンかつ安全性が高いことも含めて、やはり魅力的な手法だと感じています。偏在しない燃料資源を利用できることもあり、日本にとっては最適な技術だと思います。 

最近は私が核融合に関わり始めた頃に比べて、発電という観点よりも脱炭素に寄与できるという環境面での利点が注目されるようになってきたと感じています。それでも、日本が自国で必要なものを賄える技術という点では、私がこの道を選んだ動機とも繋がっているので、自分のやっていることが「核融合の実現に役に立つんだ/役に立ってほしい」という気持ちで、関わり続けてこられたのではないかと思います。 

現時点での核融合の実現への課題はどう言ったところだと思いますか? 
商業炉に向けては、ブランケットやダイバーターの改善が重要だと感じています。 

前提として、材料の領域はどうしても研究に時間がかかる領域です。これまでの研究開発でもかなりのレベルまで来ていることから、短い寿命のものであれば、現状の技術で炉を作ることができるのではないかと思います。一方で、長く使うことができる商業炉を作るためには、さらなる材料の研究が必要だと認識しています。 

ジャイロトロン領域でのこれからの挑戦はどう言ったところだと思いますか? 
ジャイロトロン1本あたりで出せるパワーをいかに大きくすることができるかが、今後の挑戦だと思います。イギリス政府が進めるSTEP計画の原型炉でも、現在のジャイロトロンだと300本〜400本が必要になると考えられていますが、1本のジャイロトロンあたりの出力が大きくできれば、より少ない本数で目標とする加熱を実現できる可能性があります。 

京都フュージョニアリングにはどのようなことを期待されていますか? 
KFには、日本の核融合産業を牽引してもらいたいと期待しています。以前、KFの共同創業者でもある小西先生の講演を聞いた際に、世界における産業界の核融合への取り組みがいかに進んでいるのかを改めて実感しました。講演を聞くまで、核融合の実現はまだまだ時間がかかり、民間企業が取り組むにはまだ早いのではないかと思っていましたが、イギリスは特に官民どちらも非常に勢いがあり、想像をはるかに超えるスピードで核融合の実現に近づいていると感じています。特に、今年に入って、当時では考えられないような飛躍的なデータを出す民間企業も出てきています。 

そんな中で、ジャイロトロンはKFにとって、飛躍のベースになると考えています。昨年UKAEAの受注が確定しましたが*、今後、まずはUKAEAに無事ジャイロトロンを納品し実績を残すことが、さらなる飛躍の足がかりになり、その時には世界がKFに注目するのではないかと思います。 

私もこれまで携わってきた開発が世界に出るのはとても嬉しく感じていますし、引き続き、筑波大学とKFの連携などを通じて、ジャイロトロンの開発に尽力したいです。 

*プレスリリース「英国の公的研究機関UKAEAからMAST Upgrade球状トカマク実験用ジャイロトロンの受注契約を獲得」 

核融合産業の若手技術者・研究者に期待していること 
核融合に向けた研究・開発は、「理論上で起きるはずだとおもっていたことが、実験してみると全く思うように動かない」ということばかりの世界です。その時、すぐに諦めてしまわずに、どうやったら理論と同じように実現できるのか、しぶとく原因を追求し、チャレンジ精神を持って、粘り強く取り組んでいただきたい。一方で、それと同時に俯瞰的にものを見て見直すような冷静さも上手くミックスしながら、是非核融合の実現に向けて頑張ってもらいたいです。 

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