2023.05.31
INTERVIEWS & COLUMNS

Behind the Fusion Scene: Paul Barron

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Paul Barron, Plant Technology Division, Technical Development Department
2022年8月に京都フュージョニアリングに入社し、2022年9月より日本での勤務を開始。ケンブリッジ大学で材料科学の学士号と修士号を取得し、マンチェスター大学で博士号を取得。博士課程では、the Fusion Centre for Doctoral Training(CDT)の助成を受け、日本の核融合科学研究所(NIFS)の研究プログラムにも参画。

科学に興味を持ったきっかけは?
幼い頃から本を読むのが好きで、常に自分の周りの世界についてもっと知りたいと思っていたので、科学にも自然と興味を持つようになりました。また、両親や祖父母の家事やガーデニングといった作業にも興味津々で、率先して手伝っていたのですが、物を直そうとして、さらに壊してしまうようなこともしばしばありました(笑)。 科学だけでなく、研究室での実験など実際に手を動かすような作業に常に惹かれるのも、この頃から変わらないかもしれません。

大学では、当初物理学を専攻していましたが、やってみるとすごく難しくて、途中から材料科学に転向しました。結果として材料科学はすごく自分に合って、核物質に関するモジュールに興味を持ちはじめた頃、フュージョンエネルギーに関する博士課程があることを知ったんです。当時はまだフュージョンエネルギーについてよく知りませんでしたが、プログラムに魅力を感じて、応募することにしました。

博士課程では、Fusion Centre for Doctoral Training(CDT)という研究教育プログラムの資金援助を受け、フュージョンエネルギーへの応用を見据えた低放射化多主成分合金の開発に焦点を当てた研究をしていました。そしてこのプログラムの一環として、日本の岐阜にある核融合科学研究所(NIFS)で2ヶ月間研究をする機会を与えられたことが、初めて日本での生活を経験するきっかけとなりました。滞在中は、フュージョンエネルギーの研究に携わる同世代の仲間と親しくなれてとても嬉しかったですし、週末には日本各地を散策するなど、日々を存分に楽しみました。滞在していたのは市街地から2、3キロ離れた寮だったのですが、それまでイギリス以外で生活したことがなかった私にとっては何もかも新鮮でした。だから、もし将来日本で働く機会があれば、さらに楽しい経験が沢山できるのだろうな、と思い描くようになりました。

博士号を取得した後、最初はフュージョンエネルギーに関わる仕事に就きたいと考えていました。ただ、実際に仕事を探してみると、コロナ禍だったこともありますが、自分に合った仕事を適切なタイミングで見つけるのは容易ではありませんでした。そうして、材料科学以外の領域の仕事についても検討するなかで、超音波手術装置用の材料を研究していたグラスゴー大学の博士研究員の職に就くことができました。この仕事もとても魅力的で、材料科学分野での知識や専門性を広げることができました。

京都フュージョニアリング(KF)に入社したきっかけは?
KFとの出会いはまったくの偶然によるものでした。2022年1月、日本での学術系の求人情報を掲載するサイトをみていた時に求人を見つけたんです。以前、博士課程修了時にこのサイトで仕事を探した時には、気になる仕事やポジションはありませんでした。KFの存在を知ったのはこの時が初めてでしたが、仕事内容が私の博士課程での研究内容に非常に合っていると感じました。

ただ、博士研究員としての仕事も充実していましたし、言葉の壁や知り合いもほとんどいない日本で働くことはリスクを伴う決断だと感じていました。そのため、友人や家族の意見を聞きつつ、人生経験とキャリアの両面で慎重に考えてみたんです。

人生経験としては、これまで長期にわたってイギリスを離れることがなかったため、いつか海外での生活を経験してみたいという強い思いがありました。特に、前述のとおり日本は過去2ヶ月間暮らした時にも住みやすい国だと感じていたので、うまく馴染むことができるのではないかと期待していました。またキャリアの面では、短期間で大きな責任を負い、急成長を経験できる小規模なスタートアップで働ける機会に大きな魅力を感じていました。また、外国で働くこと自体、新しい環境への適応力を養う上で絶好の機会だと考えました。

ただ、それらすべてを考慮しても、正直なところ友人や家族と離れて暮らすことは私にとって最も難しい決断でした。でも家族が私の挑戦を心から応援してくれたので、それに後押しされて決断することができました。いつも変わらず支えてくれる家族には、本当に感謝の気持ちでいっぱいです。

現在KFではどのようなプロジェクトに取り組んでいますか?
現在は、UNITYにおけるリチウム鉛ループの熱交換器の開発や、溶融塩の腐食に関する研究、安全チームでのトリチウムの取り扱いや国際的な核融合規制に関する調査など、いくつかのプロジェクトに並行して携わっており、それぞれに挑戦とやりがいを感じています。

熱交換器の開発プロジェクトでは、腐食や酸化を防ぐための素材のコーティング方法について、さまざまなアプローチを試行しています。また、実際にコーティングを実施できるパートナー企業を見つける必要があるため、チームメンバーと協力して日本の企業に連絡を取り、潜在的なパートナー候補の情報を収集し、それを基に研究を進めています。

溶融塩プロジェクトでは、この素材に有毒なベリリウムが含まれているため、材料の取り扱いには細心の注意が必要です。しかし、将来的にKFがこの材料を利用する可能性があるため、会社として、この素材に関する経験を積むことは非常に意義のある取り組みだと考えています。また、熱交換器と溶融塩のプロジェクトでは、入社直後に京都大学の研究室で約2カ月間、実験に取り組む機会がありました。現場で手を動かす作業が好きな私にとって、研究室での実験は非常に楽しい経験でした。

また、安全チームでは、英国の規制や関連文書の調査などを行っていますが、非常に専門的で深い内容のものが多く、慣れない分野で用語がわからず難しさを感じることもあります。それでも、チームメンバーがとても親切で協力的なので、私にとって実りの多い経験をもたらしてくれていることに感謝しています。

私はフュージョンエネルギーの博士号を取得していますが、それは比較的特殊な材料の分野に焦点を当てたものです。KFに入社以降、自分の強みである液体金属腐食の専門知識を活かした研究に取り組む一方で、フュージョンエネルギーの多様な側面を新たに探求する機会を得られていることを嬉しく思います。例えば、プラントエンジニアリングチームとの対話を通じて、燃料サイクルやセラミックスなど、これまであまり馴染みのなかった領域についても多くの知識を得ることができました。入社前の期待をはるかに上回る幅広いプロジェクトに携わることができて、とても嬉しく思っています。

日本を拠点とするスタートアップで働いてみて感じたことはありますか?
KFで働く魅力の一つは、現時点ではまだ比較的会社規模が小さいことから、多くの同僚と知り合うことができ、社内で相談したいことがある時に誰に話せばいいのかがすぐに分かることです。また、私は日本のオフィスで働いていますが、イギリスやアメリカのメンバーとも出張での来日時などに定期的に対面で話す機会があります。特に、今年の6月に開催されるグローバルキャンプでは、各国のメンバーが日本に集結するので、まだ直接会うことができていない新しいメンバーとも会えるのがとても楽しみです。

敢えて日本で働く上で大変なことを挙げるとすれば、当然のことですが、事務処理、請求書の支払い、アパート探しなど、生活にまつわる手続きをすべて日本語で行わなくてはいけないことでしょうか。ただ、これについては、日本の主要言語が日本語であることも事前に理解していたので、ある程度覚悟ができていました。幸いなことに、KFのメンバーが快く手伝ってくれているので、とても助かっています。これもKFの特徴のひとつかもしれませんが、メンバーがとても社交的なんです。普段の仕事とは違うチームの仲間たちと食事やお酒を楽しむこと多く、皆すごくフレンドリーなので、社内で行われるさまざまなイベントへの参加もとても楽しんでいます。

あとは、博士研究員だった時と比べても、KFのメンバーの多様なバックグラウンドは非常に刺激的だと感じています。あくまでも個人的な見解ですが、アカデミアの研究者は自身の興味や研究分野に近いリサーチグループに所属することが少なくないため、同等のスキルセットや専門性を身につける機会が多いと思います。それに対して、KFは民間のスタートアップだということもあり、化学工学や物理学など、さまざまなバックグラウンドを持つ人が集まっているので、その点でも私にとっては貴重な学びと成長の機会を得られていると感じています。

ポールさん自身はKFでどのようなことを達成したいですか?
私の目標は、フュージョンエネルギーを実現可能で持続可能なエネルギー源として確立させることです。これは、人類がこれまで追求してきた中で最も複雑な科学的・工学的挑戦のひとつであり、豊富な知識と数えきれないほどの技術開発を必要とするものだと考えています。この挑戦に向けて、多くの人がさまざまな側面から取り組んでいますが、一人の人間がこの業界に革命的なブレークスルーを起こすことは難しいのではないかと個人的には考えています。この挑戦に関わる多くの人の改良が少しずつ積み重なって、真の成功につながると信じています。

「私が彼方を見渡せたのだとしたら、それはひとえに巨人の肩の上に乗っていたからだ」というアイザック・ニュートンが用いた有名な言葉があります。私たちが享受している今日の素晴らしい技術や科学において、私たちは先人たちが行ってきたことの上に積み重ねているに過ぎません。フュージョンエネルギーやKFに出会う前から、私は「人類のためになることをしたい」という想いがいつも心の片隅にありました。なので、この歴史的な偉業の達成のために、少しでも知識の蓄積や技術課題の前進に寄与できるなら、私にとってそれ以上の喜びはありません。

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