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In a nutshell:
2023年4月に京都フュージョニアリング(KF)に入社したSuneui(ソニ)さんは、韓国の大学を卒業後、フュージョンエネルギーを学ぶために日本の大学院へ進学しました。博士過程を修了後、KFに入社し、フュージョン燃料サイクルのストレージシステムの研究・技術開発に取り組んでいます。
Suneui(ソニさん)が京都フュージョニアリング(KF)で取り組んでいる業務について教えてください。
Fuel Cycle DepartmentのTritium Technologies Teamに所属し、フュージョン燃料サイクルの技術開発・研究に取り組んでいます。私は主に、核融合反応を起こすための燃料である、重水素とトリチウムを安全に蓄えるための「ストレージシステム」の開発を担当しています。
目下取り組んでいるのは、水素貯蔵合金の研究です。核融合実験炉「ITER」などでは、ストレージにウランを使用しますが、規制に基づいた管理や報告書の提出が必要になるので、KFでは「ジルコニウムコバルト(ZrCo)」という合金を使用できないかと研究をすすめています。
一方で、ZrCoを用いたストレージシステムはウランに比べて物質の特性上、使用する度に結晶構造が変形し、劣化してしまうので、ZrCoの特徴を踏まえたストレージシステムの研究開発に取り組んでいます。よりパフォーマンスが下がりにくいストレージシステムを作るため、日々試行錯誤しています。]
水素ストレージの技術を研究開発する上で、大変なことややりがいを感じる瞬間はありますか?
実験環境を整えることが最も大変です。実験結果を正しく比較するためには、比較したい要素以外の部分は同じ条件にする必要があります。
フュージョン燃料サイクルシステムは複数の装置が複雑に絡み合っているので、実験装置でも装置同士の適合性や配置に気を付けなければなりません。機器の角度や高さなどのわずかな違いでも、実験結果が大きく変わってしまうデリケートな世界です。
最初は思うように実験環境を整えることができずに、準備にかなり時間をかけてしまうこともありました。しかし、実験を繰り返すうちにコツをつかめるようになり、「ガスケットはこうすると付けやすい」「この配管はこの高さでこの角度がいい」など、ちょうどいい塩梅がわかるようになりました。
その結果、スムーズに準備を終えて実験自体に費やせる時間が増えましたし、意図的に条件を変えて、もっと効率のいい方法がないかを探ることも可能になりました。私自身の成長も実感することができて、嬉しいです。
他には、昨年の11月に行われた「第41回 プラズマ・核融合学会 年会」で、ストレージシステムに関する私の実験結果を発表したときも、大きなやりがいを感じました。
発表後には、大学院で私がお世話になっていた先生と、当時はできなかったようなZrCoを用いた研究開発について議論でき、私がKFで成長した様子を見せることができた気がして嬉しかったです。また、他の先生からも実験方法のアドバイスを頂くなど、大変刺激的な機会でした。
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いまお話で触れられた先生とは、KF入社前に日本の大学院でフュージョンエネルギー関連の研究をしていたときにお世話になったそうですが、韓国ご出身のソニさんが、日本でフュージョンエネルギーを学ぶきっかけは何だったのですか?
私は学生の頃から化学に興味があり、特にエネルギー分野が面白いと感じて、世の中の発電方法を色々調べていました。次第に「なるべく危険性が低く、一方で大きなエネルギーを実現する方法はないのか」といった疑問が浮かぶようになったのです。
そんな中、私が通っていた剣道道場で偶然知り合った方がフュージョンエネルギーの研究者で、その原理や将来性について教えてもらったときに「まさにこれだ!」と一気に興味が湧いたんです。
その方と話すうちに、フュージョンエネルギーの燃料に関する研究は、色々な場面で応用ができる将来性のある分野であることや、燃料の研究が盛んな大学院が日本にあることを教えてもらいました。
私は興味のあることはすぐチャレンジしたくなる性分なので、すぐに日本の大学院への進学を決めました。生まれ育った韓国を離れ、海外の大学院に行くことに少し不安はありましたが、好奇心の方が大きかったです。
また、当時は日本語があまり得意ではなかったので、急遽大学の日本語の講義を下の学年に混ざって一から受け始めました。進学まであまり時間がなく、焦りもありましたが、先生にも「日本の大学院に進学する!」と熱意を伝え、サポートを受けながら必死で勉強した結果、願書の提出までに必要な日本語のレベルまで引き上げることができました。
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大学院ではどのような研究をしていましたか?
修士課程および博士課程では、「JET-ITER-like wall 真空容器内におけるトリチウムの分布と蓄積メカニズムの解明」という国際協力プロジェクトのITERに関する研究を行っていました。詳しい研究内容はKFのブログでも紹介しているので割愛しますが、The Joint European Torus (JET)で使われた部品を使って、材料とトリチウム量の関係性を分析する研究内容でした。
現在KFでフュージョン燃料サイクルシステムの技術開発を行う上で必須となる燃料に関する知識を身に付けられたので、このテーマを選んで良かったと思います。
また、ITERの実験で使われた部品はトリチウムを含んでいるため、国内だと青森の六ヶ所村、海外ではフィンランドのエスポーにあるVTT Technical Research Centre of Finlandなど、指定された研究所に送られます。私自身も頻繁に現地に出向き、世界中の研究者とやりとりする機会に恵まれました。
文化や価値観が異なるため、コミュニケーションがうまく取れずに悩むこともありましたが、自分には無い視点でフィードバックを貰うこともあり、大変勉強になりました。
当時の経験は、世界5つの拠点で様々なバックグラウンドを持ったメンバーが働いているKFでも活かせていると思っています。
KFに入社したきっかけはなんだったのでしょうか?
フュージョンエネルギーに関する研究には大きなやりがいを感じていたので、博士課程修了後も日本に残り、関連する仕事に就きたいと思っていました。
就職に向けてフュージョンエネルギーに関する日本国内の研究所やスタートアップを調べていると、研究室の先生が、「スタートアップで外国籍のメンバーも活躍しているKFは、ソニが求める環境に近いのでは」と教えてくれたんです。
最初はKFがどのような会社か知りませんでしたが、調べてみると私が学生の頃から知っている小西さんや向井さんが在籍していると知り、「フュージョンエネルギーを長年研究してきた2人がいるような会社だったら、周りからノウハウを吸収して、いち早く成長できるのではないか」と思い、会社のホームページから応募しました。
面接を通過し、無事に入社が決まったときは、嬉しかったと同時に「これからどのような挑戦ができるのか」と期待で胸がいっぱいでした。
実際に入社してみて、KFは成長できる環境だと感じますか?
私が現在所属しているFuel Cycle Departmentには、すでにエンジニアや研究者として経験を積んできているメンバーが多く、日々の業務を通じて彼らから多くのことを学べています。私のチームでは、一人ひとりの得意分野を活かしてフュージョン燃料サイクルシステムの技術開発に取り組む一方で、個人プレーにとどまるのではなく、各々が培ってきたノウハウや経験に基づいたアイデアを、他のメンバーとも積極的にシェアしています。ただ、これはFuel Cycle Departmentに限らず、Plant Technology DivisionひいてはKF全体でも言えることですね。
フュージョン燃料サイクルシステムは排気システム(ダイバータ、ポンプ、DIRシステム)および分離技術(不純物ガス除去、同位体分離システム等)などのシステムが連動しているので、自分が担当している領域以外の知識や経験がシェアされると、自分の実験を「どのように他のシステムに適合させるか」などを考えることができ、非常にありがたいです。
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先日、KFとして2つ目となる新たな自社研究開発拠点が開設となりました。今後の技術開発はどう変わっていきそうですか?
これまで、フュージョン燃料サイクルシステムの技術開発は複数の拠点で行っていましたが、拠点を東京流通センター(TRC)に移動したことで、システムを構成する部品を1ヵ所に集約できました。これまではできなかった統合的な実験ができるようになり、より技術開発が加速していくでしょう。
水素同位体と不純物を分ける「Pd Diffuser」とそれらを運ぶ「真空ポンプ」をつなげて水素および不純物の運搬を実験するなど、システム同士の連動具合を調べることができるようになりました。
これまで異なる拠点で実験をしていたメンバーも、1つの拠点に集まることで、チームメンバー同士の連携も一層強化され、R&Dをより効率的にできると期待しています。
最後に、ソニさんがKFで実現したいことについて教えてください。
私はこれまで、ストレージシステムに使われている材料の耐久性に関する研究開発を行ってきましたが、今年からはストレージシステム周辺の運搬システムをシミュレーションしていきます。このシミュレーションを通じて、効率的に燃料を蓄えるための適切なストレージシステムのデザインを固めていきます。新しいことにチャレンジできると思うと、すごく楽しみです。
より長期的な目標でいうと、現在はフュージョン燃料サイクルシステムのストレージに関する技術開発に取り組んでいますが、今後は他の部分にも携わり、システムの開発に貢献し、より私の活動の幅を広げられたいと強く思っています。
最終的には、私の知識やスキルをフルに活用して、フュージョンプラントの実現に向けて、力を発揮したいです。