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THE FUSION ERA – ジャイロトロンの設計と実験のギャップを埋める独自シミュレーションコード開発

皆様、こんにちは。
京都フュージョニアリングの広報担当です。

フュージョンエネルギー実現の鍵を握る機器のひとつが、プラズマ加熱システム「ジャイロトロンシステム」(ジャイロトロン)。当社では、既存のジャイロトロンの性能を制限しているボトルネックを突き止め、さらに優れたジャイロトロンを、再現性を持って作るための研究開発を進めています。

その一環として、当社のエンジニア・小林が開発したのが、ジャイロトロン内部の電子ビームの動きを高速かつ精密に計算する独自のシミュレーションコードです。

従来の手法では数時間かかっていた計算をわずか約5分で完了できるようになり、設計と実験のギャップを埋める重要なツールとなっています。

そしてこの研究成果は、7月23日から2日間、北海道大学で開催された「第16回核融合エネルギー連合講演会」で発表され、開発者である小林は「若手優秀発表賞」を受賞しています。

今回のブログでは、その開発の裏側や受賞への想い、今後の展望について小林本人に話を聞いています!

今回の研究テーマである「電子軌道計算コード」とは、どのような研究だったのですか?

ジャイロトロンは、磁場を使った炉形式(トカマク型やヘリカル型)において、核融合反応を起こすためにプラズマを温める、いわば電子レンジのような機器です。

現在のジャイロトロンは家庭用電子レンジ(500W)の約2000倍の出力 (1 MW)でプラズマを温めることができます。

私の京都フュージョニアリング(KF)における主なミッションは、日本の研究機関を中心に開発され、国際的にも加熱性能や効率面で高く評価されてきたジャイロトロンをベースに、さらに優れたジャイロトロンを再現性持って作ることです。そのためには、まず「既存のジャイロトロンの性能を制限しているボトルネック」を定量的に突き止める必要があります。

ジャイロトロンは強い磁場・高い電圧・大きな電流が必要とし、構造が非常に複雑な装置です。現在の1 MW級ジャイロトロンをさらに大出力化(将来的には1.5〜2 MW)するには、電子ビームの電圧や電流を上げる必要がありますが、電流を大きくすると電子同士が反発し合う「空間電荷効果」という現象が強まります。これが強まると、ジャイロトロンの効率が下がってしまうんです。

こうした影響を正確に計算できなければ、大出力化の設計を行うことはできません。そこで、ジャイロトロン内部の電子ビームの動きを、空間電荷効果まで含めて高速かつ精密に計算できる独自のシミュレーションコードを開発しました。

今回開発したシミュレーションの、技術的なポイントを教えてください。

一番のポイントは「速さと精度の両立」です。

ジャイロトロンの中では、電子ビームを発生させ、強磁場で誘導し、パワーの一部を使って電磁波を発生させてから回収するといういくつものプロセスがありますので、それらを統合的に扱うプログラムが必要だと考えていました。

電子ビームの挙動を精密に計算するにはPIC(Particle-In-Cell)法という手法がよく使われますが、これは非常に時間がかかる手法で、ジャイロトロンの一部をシミュレーションするだけでも6時間程度かかることがあります。

また、高速な商用プログラムもありますが、それを使って統合的なプログラムを作るのは難しいと感じていました。

今回、私の開発したプログラムではジャイロトロン全体での電子ビーム計算を約5分で完了できるようになりました。電子ビームの軌道と空洞内のマイクロ波発生を、お互いの影響を正しく考慮しながら(自己無撞着に)短時間で解ける点が大きな特長です。

工夫した点は大きく2つあります。

1つは、優れたオープンソースのライブラリを積極的に活用したこと。ただしライブラリはドキュメントを読み込んで正しく使わないと思った通りの計算にならないので、そこを使いこなすのが一番苦労したところでもあります。

もう1つは、計算結果を変えずに高速化するための並列化です。ここでは最新のAI(大規模言語モデル)の力をかなり借りました。社内のITチームがとても協力的で、パソコンのスペックやセキュリティ対策含め、こうした最新のAIを業務で積極的に活用できる環境を整えてくれたことも、開発を大きく後押ししてくれました。

コードの実装やデバッグ、文献調査はAIに任せることで、私は「物理的に正しい結果が出ているか」の検証に時間を集中できました。人とAIで役割を分担できたことが、開発を大きく前進させたと感じています。

受賞の率直な感想を聞かせてください。

率直に、とても嬉しかったです。入社した当初はチームが小さかったことから、私はジャイロトロン電源のコミッショニングなどを含めて多くの役割を担ってきました。そこから、さまざまな技術を持つ仲間が加わり、国内・海外でのジャイロトロンシステムの設計や試験を引き継いでくれたことで、最近はジャイロトロンの研究開発に集中できるようになりました。その中で取り組んだテーマが評価されたことは、大きな励みになります。

今回の発表では、プログラムを開発したということだけを発表するのではなく、ジャイロトロンの効率低下を招く主な要因の一つである空間電荷効果を丁寧に検証しました。正しいシミュレーションを行って実験データと比べることで、計算と実験のずれがどこにあるのか、どんな物理現象が効率を下げているのかが見えてきます。地に足をつけた技術開発を行っているということを評価していただけたのだと思います。

学会自体も数百人が集まる非常に活気のある場で、ポスターセッションは通路を歩くのも大変なほどの賑わいでした。自分のポスターについて説明を求められる場面が多く、この研究への関心の高さを肌で感じられたことも、強く印象に残っています。

この研究成果は今後どのように活かされていくのでしょうか?

このシミュレーションは、すでに新しく製造したジャイロトロンの試験立ち上げの際、運転条件を探索するのに活用され始めています。もともと「実機の試験で、設計時に期待した発振効率が出なかった」という課題から開発を始めたので、この設計と実験のギャップを埋めることが狙いでした。計算が遅いと実験と突き合わせるのが難しくなるため、高速で高精度なシミュレーションにこだわったのもそのためです。

今後は実際の運転データと比較しながらモデルの精度をさらに高め、1 MWを超える大出力ジャイロトロンの開発をデータ駆動で進めていくとともに、ジャイロトロンの運転を最適化していくような仕組みができたらよいと考えています。

今後、挑戦していきたいことはありますか?

フュージョンエネルギーは、これまでアカデミアで培われてきた知見を産業化していく段階に入り、国際的な競争力が求められるフェーズを迎えています。今回の学会でも、個々の学術トピック以上に「産業化をどう進めるか」という視座の高い議論が中心でした。

そんな中で私が挑戦したいのは、いくつもの「橋渡し」ができる技術者になることです。今回の研究は実験と計算のギャップを埋めるためのコード開発という意味で実験と計算の橋渡しですし、理学系のバックグラウンドを持っていることが、ジャイロトロンという工学系の開発に携わっていることも理学と工学の橋渡しといえます。

今後の技術開発ではアカデミアとスタートアップの橋渡しが必要ですし、日本の優れた技術力・製造力を世界でアピール・活用していく日本と世界の橋渡しが必要です。こうした橋渡しをより大きなスケールで担える技術者・研究者になっていきたいと思っています。


フュージョンエネルギーの実現に向けて、大出力かつ高効率なジャイロトロンの開発は欠かせないピースの一つです。小林をはじめとする技術者たちの地道な研究の積み重ねが、その実現を着実に近づけています。

今後とも京都フュージョニアリングにご注目ください。 また次回の「THE FUSION ERA」でお会いしましょう!

THE FUSION ERA:https://kyotofusioneering.com/news_category/blog

小林のインタビュー記事(2023年2月時点):https://kyotofusioneering.com/news/2023/02/08/1165