2024.01.17
INTERVIEWS & COLUMNS

Behind the Fusion Scene: 辻村 亨

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In a nutshell:
現在プラズマ加熱に利用されるジャイロトロンシステムの研究開発に取り組む辻村さん。学生の頃から情熱を持っていたフュージョンエネルギーとエンジニアリングの業界に飛び込み、国の研究機関で大型フュージョンエネルギー炉の研究開発に携わります。その後さらなる挑戦を目指して京都フュージョニアリングに入社し、主力事業のひとつであるジャイロトロンシステム開発の最前線で活躍しています。


京都フュージョニアリング(KF)では何を担当していますか?
私はElectro Magnetic Technology Teamの一員として、プラズマ加熱に利用されるジャイロトロンシステムの研究開発および製造に携わっています。中でも、装置の仕様を実際に確認する工場受入試験(Factory Acceptance Test:FAT)とサイト受入試験(Site Acceptance Test:SAT)を中心に行っています。直近では、2021年に受注した英国原子力公社(UK Atomic Energy Authority:UKAEA)向けのジャイロトロン2基の発振出力を安定させる試験が無事に終了し、現在は当社の研究開発拠点である「京都リサーチセンター」にて、他の部品との組み合わせなどを試験しています。

ジャイロトロンシステムの製造において、顧客から要求された通りの性能を実現するのは一筋縄では行きません。出力や持続秒数など、すべての要求を満たせるまでには非常に細かな調整や動作を安定させるエージングなどのプロセスがあり、紆余曲折を経てようやく求められる性能に到達します。正直、思うような結果がなかなか出ないときは苦しいですが、その分求めている結果が得られたときの達成感は大きいです。

そのほか、ジャイロトロンをシステムとして組み上げるために必要な装置の研究開発も行っています。例えば、プラズマの代わりにダミーロード(模擬負荷)と呼ばれるマイクロ波を内部で吸収する装置の開発です。ダミーロードの役割については当社のブログを読んでもらえればと思いますが、このダミーロードは販売しているメーカーが限られていることもあり、かなり高額なうえ、ジャイロトロンの出力や周波数に適したものが求められます。そこで2023年4月に私がKFに入社後すぐ、大型ダミーロードの開発を任されました。幸いある程度の情報はありましたが、それが正しいのかを確認したり、足りない情報を集めて検証したりと、その道のりは平たんではなかったです。そんななか、設計から製造までを約3カ月で完遂し、FATで機能させることができたときは安堵しました。

Fusion Engineer handling a gyrotorn

いつからフュージョンエネルギーに興味をもったのですか?
フュージョンエネルギーを知ったのは私が中学生のときです。父が相対性理論に関する書籍を持っていて、それを読んでみたのがきっかけでした。もちろん本の内容は当時の私にとって難しすぎましたが、フュージョンエネルギーというものがあることは理解できました。また、映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」もきっかけの一つですね。この作品のPart2にはフュージョンエネルギーが登場していて、デロリアンという未来に行ける車の燃料として使われているというのは結構有名な話です。科学技術に興味を持ち始めたのもこの頃からですね。中学卒業後は、電気工学系の高等専門学校に進学しました。迫りくるエネルギー危機に漠然と関心を持ち始め、まだ人類が実現していないフュージョンエネルギーが究極の次世代エネルギーであることを知りました。

ちょうどその頃、フュージョンエネルギーの実験炉を作る国際プロジェクト「ITER」が始まっており、フュージョンエネルギー実現に向けた取り組みが大きく動いていることを知りました。心の中にずっとあったフュージョンエネルギーへの想いが一気に高ぶったのを覚えています。いよいよフュージョンエネルギーが現実のものになろうとしているのだと確信し、「私もその開発に携わりたい!」と思いました

そして専門学校で培った知識をベースにフュージョンエネルギーを専門的に学ぶため、東京大学に編入しました。研究室では、プラズマを合体させる実験装置を用いて、高ベータ閉じ込め配位と呼ばれるプラズマを生成する仕組み(磁気リコネクション)を研究しました。また短期間ですが、アメリカのプリンストンプラズマ物理研究所での研究機会を与えて頂きました。学生のうちに日本とは別の地で海外の優れた研究者や学生とともに研究できたのは、とても刺激的で貴重な経験だったと思います。

念願のフュージョンエネルギーに関する研究はできたものの、次第にもっと大きな装置でプラズマを扱いたいと感じ始めました。幸いにも、大学院博士課程修了後は核融合科学研究所(National Institute for Fusion Science:NIFS)に就職できました。ここでは複数あるフュージョンエネルギー炉の形式の一つである、ヘリカル型の大型装置(Large Helical Device:LHD)でジャイロトロンを用いた電子サイクロトロン加熱(ECH)システムの高性能化を行っていました。ずっと大型装置での研究をやりたかったので、とにかく楽しく、学びも多かったです。ジャイロトロンに本格的に関わるようになったのはここからです。LHDのような磁場配位は基本的にプラズマ電流を必要としないので、安定したプラズマを維持でき、ECH研究には都合が良かったのだと思います。NIFSではプラズマの高温度化、波動伝播や吸収計算に基づくプラズマ加熱システムの制御、伝送系部品の開発など、多くの研究活動を行いました。議論が活発で色々な考え方に触れることができたこともあり、本当に学びが多く楽しかったです。

KFに転職を決めた理由を教えてください
NIFSでの研究は楽しく、やりがいはあったのですが、2022年にLHDプロジェクトがひと段落したことを受け、新しいことに挑戦したいという気持ちが芽生えてきました。また、NIFSは学術研究機関としての特色を持ちますが、私自身、学生の頃からどちらかというとフュージョンエンジニアとしてフュージョンエネルギー炉を実現したいという想いがありました。そんな中、日課としてフュージョンエネルギーに関する情報を調べていたところ、たまたまKFがジャイロトロンに関係するポジションで人材を募集していることを知りました。

ウェブサイトを見てみると、日本の技術力を結集したジャイロトロンを世界展開するビジネスが紹介されており、ジャイロトロンに関わっていた身として深く共感しました。またそのビジネスを支えるメンバーが、KFのCTOである坂本さんを始め、これまで研究機関やメーカーでジャイロトロンを実際に触れてきた方々だったということに信頼感と安心感を覚え、「思いきってチャレンジできるはずだ」と期待が高まりました。スタートアップに転職することに対して若干の不安はありましたがすぐに応募したことを覚えています。

この原動力の源は、フュージョンエネルギー早期実現の夢のために私に残された時間はもう30年ほどと非常に短くなってきたという危機感です。将来のフュージョンエネルギー炉に重要なジャイロトロンシステムをKFが海外展開し、世界のフュージョンエネルギー開発を加速させようとしているところが特に魅力的でした。これまで私が培ってきたプラズマ加熱研究開発の経験を活かす場としてKFが最適であると考えました。

ほかにも、2017年に私が患った難病がきっかけで、身体が思うように動かなくなることを経験し、絶望を味わったのも挑戦に前向きになれた理由の一つです。当たり前のことがそうでなくなる苦しみや、夢が途絶えるかもしれない恐怖と数カ月間闘いました。過酷なリハビリと家族の献身的なサポートの末、今では症状が全く出ない段階まで回復できましたが、その時、人生は何が起こるかわからないこと、そしてやりたいと思ったことに挑戦しないと後悔することに気がつきました。そのため、チャレンジが受け入れられるスタートアップで働くことにワクワクしていましたね。

実際KFに入社してみて感じることを教えてください
入社前に期待していたとおり、経験豊富なチームメンバーとジャイロトロンシステムを研究開発でき、とてもやりがいを感じています。私が学生の頃に名前を聞いたことのあるようなジャイロトロン界隈のレジェンドたちが持つ知識や技術に触れ、一緒に仕事できることは学びも多く刺激的です。

もちろん日々困難もありますが、チームのおかげで壁を乗り越え、自分自身成長できていると感じています。その点、若手はもちろん、成長意欲のあるすべての人におすすめできる会社だと胸を張って言えます。誰もがフュージョンエネルギー開発・産業化の最前線で活躍できる、そんな環境が魅力的です。

他にも、所属する部門に限らず、メンバー一人ひとりがフュージョンエネルギーの実現と産業化に向けて全力で取り組み、それをチームさらには他の共同研究機関と協力することで更なる価値を出しているのがKFの強みだと感じます。私の所属するジャイロトロンチームの場合、対面でのコミュニケーションを大切にしているので、週に一回出社奨励日を設けていますし、試験現場でも顔を合わせます。直接顔の見える状況で、一人ひとりが自発的に意見を述べ、時にぶつかり合いながら切磋琢磨し、ジャイロトロンシステムの研究開発に取り組んでいます。そのおかげもあり、出力されるビームの扱いが難しいとされる低周波数ジャイロトロンシステムの開発に成功することができました。

また、ビジネスチームを一例として挙げると、アメリカやヨーロッパ、アジアなど世界中からジャイロトロンシステムの受注契約を取ってきます。それに応えるべく、私たちジャイロトロンチームも全力で取り組みますし、ビジネスメンバーもそこに深く入り込んで議論してくれています。結果、当社の製品が世界中に展開されていると思うと、ひとりのエンジニアとしてだけでは達成できない喜びがありますね。

KFでは一人ひとりがひたむきにフュージョンエネルギーの早期実現と産業化に向けて取り組んでいます。私自身も、もっと何をどうすればフュージョンエネルギー業界、ひいては持続発展可能な社会に貢献できるか考えながら、これからも私らしく(?)突き進んでいきたいと思います。そして私が現役で活躍している間に、フュージョンエネルギーを実現させ、その電気で暮らしたいですね。

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