In a nutshell:
松平さんは2023年12月に入社し、当社初の自社開発拠点の京都リサーチセンターをはじめとするKF全体の安全管理業務を担っています。これまでのキャリアで培った知見と現場コミュニケーション力を活かしながら、実態が伴う安全ルールの策定や運用をリードし、KFの安全に大きく貢献しています。
京都フュージョニアリング(KF)での担当業務を教えてください。
研究開発や実験等に関わる現場の安全管理全般を担当しています。技術開発の現場では、危険が伴う作業も少なくはありません。そのリスクを事前に極力低減させることや、万が一の時にも冷静に対処できるような仕組みづくりに取り組んでいます。特に、私が入社してすぐに稼働した京都リサーチセンターは自社で持つ初めての開発拠点だったこともあり、安全管理のルールを一から作る必要がありました。前職でも安全管理に関わってはいましたが、一から立ち上げるのは初めての経験だったので、プレッシャーもありつつ、新しいチャレンジとして前向きに取り組みました。また、ルールはつくるだけではなく、それを浸透させて社員一人ひとりが日々意識して取り組めるようになることが重要なので、社内への啓発活動にも取り組んでいます。
ルールづくりは、具体的にはどのように取り組まれてきたのでしょうか。
基本となる安全ルールは私が入社する前からあったのですが、自社の開発拠点の実態に合わせて内容を精査・更新する必要がありました。京都リサーチセンターでは核融合反応を起こしたり、放射性物質を扱ったりすることはありませんが、模擬発電実証を行う「UNITY-1」が入り、高温の液体金属などを扱うことになるので、拠点のある自治体や消防所、保健所への説明や相談、必要な手続きや情報共有などを行い、元々あったルールと統合しながら、新しい安全ルールを定めました。特に、各所との調整は何度も足を運んで説明する必要があったので大変でしたが、安全は何よりも優先すべきことなので、労力を惜しまずに取り組みました。
安全ルールの一例ですが、UNITY-1は大型の設備のため、施設に備わっている天井クレーンを使用して建設することから、クレーン稼働時に周囲の安全確保をするためのルール(事前予約、注意喚起の掲示作成など)を定め、立入制限ラインの整備などを行いました。また、自社の施設ということで来訪者も多くなることを想定し、来場者向けの安全説明も新たに用意したり、現場に掲示する点検表やメンテナンス一覧表を制作したりするなど、当たり前にやるべきことから着手し、基礎となる安全管理のパッケージ化に取り組みました。
最近では、現場の実態に合わせ、夜間の無人稼働に関するルールも作りました。装置の規模や環境に合わせながら、会社として適切に確認・承認する仕組みの構築が必要だったこともあり、現場のエンジニアとも丁寧にコミュニケーションを取りながら進めました。実験のスピードを落とすことなく、安全をどう担保するのか、万が一の際の対策も含め、KF標準のルールを作ることができたので、達成感がありましたね。
その安全ルールはどのように浸透させていったのでしょうか。
具体的には、安全に関する社内講習を行ったり、定期的な情報共有の場を設けたりしています。社内講習では、その安全対策がなぜ必要か、根拠もあわせて説明して納得度を高めるようにしました。また、実際の作業で何に気を付けるべきか、具体的に説明することを心掛けましたね。このような講習の場合、どうしても自分ごとと捉えづらくなってしまうことをこれまでの経験で感じていたので、クイズを挟んだり、映像や画像を使用した説明にすることで、参加者が現場をイメージしながら聞いてもらえるように工夫をしました。
また、状況共有の場として、現場のエンジニアと管理部門のメンバーを週1回は必ず招集し、直近の作業予定を事前に指差し確認しています。実験や工事がどのような作業なのかを共有・確認することで、必要な対策を事前に講じたり、注意喚起を行ったりできるようにしています。細かな作業まで確認するので、面倒に思われないかと少し心配していましたが、エンジニアメンバーが丁寧にわかりやすく教えてくれるのでスムーズな情報共有が実現できていると思います。
そのほか、現場で作業があるときには、必ず作業前に作業内容や注意点を現場メンバー間で共有していますし、月1回の現場での安全パトロールでは、実際に適切な運用がなされているか、危険なところがないかを確認し、対策が必要な際には安全ルールに反映するようにしています。
今はまだ自社管理の研究開発拠点は1箇所なのでそこでの作業を前提にしたものになっていますが、今後他の拠点を立ち上げる際にもここで作り上げた安全ルールが横展開できると考えています。もちろんそれぞれの研究開発内容や地域のルールなど加味すべきことはあるので、より共通化・標準化し、それをKF内できちんと浸透できている状態にしたいですね。
現場責任者の小川 聰と安全パトロールを行う様子
元々安全管理にも携わっていたということですが、松平さんのこれまでのキャリアについて教えてください。
新卒で入社したのは金属材料メーカーで、品質保証の仕事に携わっていました。納品物に関して顧客とコミュニケーションを取る部門だったのですが、問い合わせ内容によっては製造現場でヒアリングしたり、工場内を調査したりする機会がありました。元々実験設備や生産設備などの機械を見ることが好きだったので、現場仕事では好奇心がくすぐられることが多かったですね。
ライフスタイルの変化に伴い転職をしたのですが、会社の規模の違いもあり、転職前よりも現場に近いところで、品質管理の基準づくりや日々の品質検査に取り組むことになりました。加えて、ここでは安全管理の仕事にも関わるようになり、現場の声に耳を傾けながら安全をどう確保していくのか、様々なアプローチを模索しながら実践していました。この経験を、今まさにKFで取り組んでいる安全管理にも活かせていると思います。
新卒から金属材料メーカーとのことでしたが、学生時代は理系を専攻していたのでしょうか。
大学では化学を専攻していて、そのなかでも理論計算系の分野を学んでいました。進路を決めるときに、自分の性格的に研究職は合わないと考え、学部を出たら就職することを考えていましたね。理系だったのでものづくりには興味があり、メーカーで働くことを意識していました。そうしたなかで、自分が学んできた化学に関わるような業界であること、そして先輩が金属材料の研究をしていてなじみがあったこともあり、金属材料メーカーを就職先として選びました。
ちょっと余談ですが、元々は生物に興味があり、実は併願で化学を受けていたのですよね。昔から昆虫が好きで、子どもの頃から祖父母と虫取りを楽しんでいました。今も変わらず生物は好きですが、化学の道に進んだことでKFとも出会うことができたので、それはそれでよかったのかなと思います。
フュージョン(核融合)やKFとの出会いのエピソードを教えてください。
前職で産休や復職を経て、ライフスタイルが大きく変化したこともあり、仕事との両立をより良くできる環境を模索していました。ちょうどその時に転職エージェントからKFを紹介されたのが、KFそしてフュージョンとの出会いでした。
「安全管理」というキャリアをもとに紹介されたのですが、最初は業界も会社もまったくわからず、まずは調べることから始めましたね。ただ、エネルギーという点では、前職でも関わりがある分野だったこともあり、興味深く情報収集を行っていました。これからの新しいエネルギーを実現するというスケールの大きな話に、ワクワクしましたし、ものづくりの技術が欠かせないという面でも、自分の興味関心に合っていると思いました。また、これまで老舗企業に勤めてきたこともあり、ベンチャー企業というこれまでと異なる環境で働くことができるという点にも魅力を感じました。キャリアの面では、品質管理だけにとどまらず、安全管理にもキャリアの幅を広げているところでしたので、KFで安全管理を専門にできるという期待もありましたね。
実際に面接を通じて、自分が何を期待されているのか、入社後に何をするのかはイメージを持つことができました。また職場の環境についても詳しく教えてもらい、柔軟な働き方をしている社員が多く、それぞれが責任をもって仕事に取り組んでいることを知ることもできました。
いよいよ内定をもらったときに、前職で経験を積むのか、新しい業界でチャレンジしていくのか、正直迷いました。ただ、人類の夢のエネルギーに関われること、ものづくりの現場で自分のこれまでの経験が活かせること、ライフスタイルに合わせた柔軟な働き方ができること、そして最後には家族の後押しもあり、KFで働くことを決心しました。入社して早々から、ちょうど立ち上がったばかりの京都の拠点を行き来するなど慌ただしくもありましたが、一から安全管理に携わり、これまでの経験も活かしつつ、新しいチャレンジができているので、KFを選択してよかったと思っています。
最後に、今後KFで実現したいことを聞かせてください。
まずは、KF標準の安全ルールを確立したいと思います。特に、フュージョンの開発現場ならではのルールも設けなければならないこともあり、これまで長年フュージョンの研究や技術開発に携わった方々の知見も必要不可欠です。幸い、KFにはベテランの研究者や技術者、またその道のエキスパートも多くいますし、エンジニアも研究所や大企業などでの経験を持つ人が多いです。色々な視点を取り入れることができるのが、KFの強みだと思いますので、現場の声を統合し、実態が伴った安全管理を形づくっていきたいです。
そのためには現場で行われていることへの理解を一層深める必要がありますので、これからも積極的にエンジニアをはじめとする関係者とコミュニケーションを取り、自らも勉強しながら取り組んでいきたいと思います。