
皆様、こんにちは。
京都フュージョニアリングの広報担当です。
先日、当社内で技術開発メンバーによるレクチャーが開催され、プラズマ加熱装置「ジャイロトロンシステム」の仕組みをわかりやすく紹介してくれました。
過去のブログではジャイロトロンシステムの試験の様子を取り上げましたが、今回はそのレクチャーの内容をもとに
- ジャイロトロンはそもそも何なのか
- ジャイロトロンはどのような仕組みなのか
- 日本国内の研究機関やメーカーによって研究されてきたジャイロトロンを当社がどのように応用し、海外に展開しているのか
といった点について、解説します!
ゴリ文シリーズとして、わかりやすくお届けしますので、ぜひご覧ください。
ジャイロトロンとは・・強力な電子レンジ?!
ジャイロトロンは、核融合炉内においてフュージョンエネルギーの源となる核融合反応を起こすために必要な条件のひとつ「高温状態」を作り出す加熱システムです。特に、「磁場閉じ込め方式(トカマク型やヘリカル型など)」と呼ばれる磁場の力でプラズマを閉じ込める形式において使用されます。(核融合炉の多様な閉じ込め形式については「ゴリ文が学ぶ#5」で紹介しています。)
どのように加熱するかというと、実は電子レンジと基本の仕組みは一緒です。私たちが日常で使う電子レンジは、電磁波の一種であるマイクロ波で食品に含まれる水分を振動させ、そのエネルギーを用いて加熱しています。ジャイロトロンも同じくマイクロ波によって核融合炉内の物質を加熱するのですが、その出力は家庭用電子レンジの約1,000〜2,000倍!最大で1メガワット(MW)にも及びます。
他にも高温にする方法はある中で、ジャイロトロンによる加熱には、どのような利点があるのか?
「磁場閉じ込め方式」の核融合炉は、その名の通り強い磁場の力で、「プラズマ」という高温のイオン化した物体を閉じ込めているのですが、この環境下でプラズマを加熱するには、高い周波数で強いパワーの電磁波を入射するのが有効であり、それができるのがジャイロトロンです。
また、マイクロ波は導波管という装置を用いて長距離で効率よく伝送できるので、ジャイロトロンを炉本体から離れた場所に設置し、炉の周辺スペースを有効に使えるという利点があります。
さらに、出力方向を鏡によってコントロールできるので、温度が下がったところを狙って加熱できるなど、安定して加熱できるのもジャイロトロンを使用する利点の1つです。
ジャイロトロンのしくみを見てみよう!
ここからは、ジャイロトロンがどのようにマイクロ波を生み出しているのかをご紹介します。
① 電子ビームの生成
まず、ジャイロトロンの下部にある電極をヒーターで温め、高電圧をかけることで電子銃に電流を流します。これにより、電子銃から電子ビーム(黄色のビーム)を発生させます。

② マイクロ波の生成
発生した電子ビームは、超電導マグネットによって作られた強力な磁場の中でらせん状に回転しながら上昇します。この回転運動は「サイクロトロン運動」と呼ばれます。
金属製の空洞共振器(キャビティ)で電子ビームがさらに回転します。このサイクロトロン運動によって電子はエネルギーを放出し、マイクロ波(赤い矢印)が生まれます。
➂マイクロ波の整形
ただし、この時点でのマイクロ波は「複雑な形」をしており、そのままでは効率よく伝送できません。そこで、キャビティの上部にある「モード変換器」を使って、マイクロ波の形を、伝送中のエネルギー損失が少なく、かつ熱負荷を低減させて出力窓やその他の部品にかかるダメージを抑える形に整えます。
これにより、高効率で伝送できるマイクロ波に変換することができます。
➃ マイクロ波の出力
形を整えたマイクロ波は、ジャイロトロン内部の鏡で反射・方向調整され、最終的に「出力窓」から外部へと放出されます。
この出力窓には人工ダイヤモンドが使われており、以下のような特長があります。
- マイクロ波を効率よく通す高い透過性
- 高出力でも熱がこもりにくい高い熱伝導性
- 長期間の使用に耐える耐熱性・耐久性
- 放電リスクを抑える絶縁性
実は当社のCTOを務める坂本率いる研究チームが、以前日本原子力開発機構(JAEA)に在籍しているときに、この人工ダイヤモンドを取り入れた出力窓を開発しました。
⑤電子ビームの吸収
マイクロ波としてエネルギーを放出したあとの電子ビームは、ジャイロトロン上部の「コレクタ」に吸収されます。
電子ビームを吸収することでジャイロトロン本体に電流を安定して流すことができます。この点でコレクタは装置の動作において非常に重要な役割を果たしています。
ジャイロトロン“システム”としての展開
ここまでご紹介してきたのは「ジャイロトロン本体」のしくみですが、実際にプラントで使用するためには、周辺機器も必要です。
ジャイロトロンは長年にわたり量子科学技術研究開発機構(QST)をはじめとする国の研究機関等で多くの研究者によって研究・開発が行われてきました。2021年には、国際的な研究開発プロジェクト「ITER」で日本国内機関としてQSTが担当する8機のジャイロトロンを完成させています。
当社はその技術をベースにしながら、高周波数のマイクロ波を出力するための開発や出力時間の長期化など、日本発のジャイロトロンが世界中で利用されるように研究開発を行い、産業転用できるよう取り組んでいます。加えて製品管理や品質保証など、ジャイロトロンの社会実装に向けて必要なプロセスを民間企業の立場から推進しています。
顧客のニーズに合わせてジャイロトロンの性能を発揮できるように、当社では、ジャイロトロンを以下のような周辺機器を含めたシステムと組み合わせて提供しています。
このブログでは簡単にご紹介すると:
- ジャイロトロンを動かすための高電圧・直流の電源装置
- 強力な磁場を生み出す超電導マグネット
- 装置全体を支え、精密な動作を可能にする架台
- ジャイロトロンを冷却し、過熱による劣化を防ぐマニホールド
- 絶縁体として機能し、放電を抑えるオイルを蓄えるオイルタンク
- システムの動作に必要な電源や測定器を搭載する計装盤” など
当社はファブレス(設計や販売を行い、製造は他社に委託するビジネスモデル)のため、優れたものづくり技術を持つ50社以上もの日本の協力会社と連携してサプライチェーンを構築し、このジャイロトロンシステムを作り上げています。
顧客に納品するためには、協力会社から調達した部品を国内の研究開発施設で組み立てて性能を試験し、その後顧客のもとへ輸送。現地に当社のメンバーが赴いて機器の使い方を説明するほか、最終的には「SAT(Site Acceptance Test)」という現地試験を通じて、システムが正しく動作するかを一緒に確認します。こうしてジャイロトロンシステムが顧客の元へと届くのです。
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今回はゴリ文シリーズということで、できるだけわかりやすく技術の裏側をご紹介しましたが、いかがでしたでしょうか。
今後も、ジャイロトロンシステムの技術開発やその仕組みについて、ブログや社員インタビューシリーズ「Behind the Fusion Scene」などを通じて、最新情報をお届けしていきます。どうぞご期待ください!
また次回の「THE FUSION ERA」でお会いしましょう!
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